悪性新生物(がん)が日本人の死因のトップになってから既に30年以上が週ぎました.その後がん死亡数は増加の一途を辿り，がん統計によると2008年には年間34万人以上の日本人が，がんで死亡しています.超高齢化社会を迎える日本において，がん対策は益々重要性を増しています.このような疫学調査を背景にして，平成19年にがん対策基本法が施行され，ようやく医療政策においてもがん対策が最も重要な課題の1つに位置付けられるになりました.本格的ながん対策は始まったばかりです.基本法施行を受けて平成19年に国のがん対策推進基本計画が発表され，放射線治療，化学療法および緩和医療の普及が，がん対策の大きな柱に据えられました.医療従事者に広くがん治療全体の理解を高める必要が生じています.

一方，最近のがん薬物療法，放射線治療および緩和医療の進歩には目を見張るものがあります.

がん薬物療法においては臨床第III相試験で様々な分子標的薬が各種がんに対して有効かつ安全であることが確認され，毎年，複数の分子標的薬が市販されるようになりました.放射線治療においては強度変調放射線治療(IMRT)装置や粒子線治療装置が各地に設置されるようになり，将来，放射線治療の適応が大きく変化する可能性があります.緩和医療に関しては，鎮痛剤などの薬物療法の進歩に加え最近では標準化学療法に加えて早期に緩和医療を導入することにより進行再発非小細胞肺癌の生存期聞を3ヵ月延長することが臨床第III相試験で示され注目されています.今後，外科治療，放射線治療とがん薬物療法の3大がん治療法に緩和医療を含めた集学的治療の重要性が増していくものと考えられます.そして，今，日々進歩するがん治療の中で，各臓器のがん診療ガイドラインの改訂が追いつかない状況が生じています.

このような背景からがんの最新治療体系についてそれぞれの分野のエキスパートが包括的かつ理解しやすい形式で解説する雑誌『がん治療レクチャー』を創刊しました.がん治療に関する最新の知識と標準治療について.Q&A形式を取り入れて，研修医や専門医，認定医を目指す若い医師および専門性向上を目指すがん医療従事者に理解しやすく解説します.

今回は創刊号として特集『がん治療最前線-米国癌学会(ASCQ)のトピックスを中心に-』を企画しました.がん治療全体の基本的な知識を習得し，かつ最新のトピックスを国際的芯視点から情報収集することができるように.そして『がん治療レクチャー』が,がん医療水準の向上に少しでも役立てれば幸いです.

編集:『がん治療レクチャー』編集委員会
(石岡 千加史，桑野 博行)