はじめに

本書は、フレイルの高齢者が不必要に病院を受診することがいかに悲惨な結果を招きかねないか、二人の著者が交わした議論の後に書かれた。この会話は、なぜこれが問題なのか、そして現在の医療システムの多くが単一臓器の疾患を治療するデザインのまま、多数の疾患を発症し複雑な併存症を持つ高齢患者集団に医療を行っているため不十分な点が多いのだという議論に広がった。

我々の社会の人口構成に起こりつつある変化は、現代医学の成功に対する贈り物だと言える。これらの変化に伴って、新たに挑戦しがいのある課題が生まれた。単一臓器疾患の治療と早期退院を目的とする環境の中で、いかにして複数の併存症を抱えるフレイル高齢患者に医療を提供するか？多くの患者が診察を待つ中で、臨床医は限られた時間で以下にして患者の薬物使用状況、社会的ネットワーク、ケアニーズといった複雑で極めて重要な情報を収集するか？どうすれば活動性と非活動性の問題を数多く併せ持つ高齢者を、効率よく安全に評価することができるのか？これらの側面について大学教育でいつ教えられるか？

現在、高齢患者の治療で病院の最前線にいるのは、救急部や急性期医療ユニットで働く臨床医である。現代医療の臨床では、これらの患者は少数派ではなく多数派を占める。もしも適切な初期治療を見落とせば、治療成績は不良となり、合併症発生率や死亡率が上がる。病院での最初の数時間が非常に大切で、結果を左右する。

救急部での高齢患者のケアを向上させるのに欠かせない手段の一つは、救急医療に関わる全ての人員に対して、この患者集団に特有のニーズについて教育し、彼らの能力を向上させることである。これが本書の目的である。

本書は主に若手医師に向けて書かれているが、救急現場で高齢者の急性疾患に遭遇するあらゆる医療従事者にとって有用な情報源になるように願っている。救急部での出来事に大きな重点を置いているが、本書で取り上げている事象の多くは、急性期医療ユニットや一般内科や外科病棟でも頻繁に発生するものである。

序論となる2 つの章は、本書の主題を背景の中に置き、救急医療現場で高齢患者に対して包括的でしかも簡潔な病歴聴取と診察を行うために必要なことを述べている。また、表や図には、それぞれの主訴に対する精査と管理に関する明確で実用的な情報を提示している。続く各章では、転倒、せん妄、脳卒中など、高齢者に典型的で頻発する問題を扱う。本書はまた、頭部外傷、腹痛、熱傷、重大な外傷といった、高齢患者ではしばしば異なる管理アプローチを要するその他の緊急状態についても議論している。本書全体を通して、「要点」の囲みで特に関連が高い情報や有用なアドバイスを強調し、各章の末尾に置かれている「覚えておくべきこと」には、その章で取り扱った領域について短くまとめている。

本書は一般的な医学テキストではない。高齢患者に見られる緊急の状態の中には若年患者と同様の方法で管理されるものもあるが、異なるアプローチと管理技術が要求されるものもある。本書の内容はこれらの相違点を反映するため、一部の話題を他の問題よりもかなり掘り下げて論じている。本書は、フレイルな高齢患者に直接関連する特有の問題や課題を論じることを目的としている。例えば心不全や急性腎障害の患者のように、状況によっては一つの「正解」がない場合がある。むしろ、患者の管理におけるよい意思決定は、何年にもわたる実践から得た経験的知識、専門医の意見や優秀な同僚たちの助言によるところが大きい。我々は、本書がこうした複雑な状況を反映し、高齢者にとって最適なケアに役立つ一助となることを望む。

IM、ST、AM、BJ、EL