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内容
序文
「宇宙医学とはどんなことを研究する分野ですか」
「宇宙医学について何か解説書はありませんか」
といった質問をいただくたびに、「早く誰か書いてくれないかなあ...」と思いつつ、多忙に流され年月が過ぎていました。
昨年の春、南山堂の方から、医学生、看護学生を対象に宇宙医学・生理学の教科書執筆の声がかかった折、「私にはとても無理...」と返事を用意したのですが、「しかし、今、要望されているものが専門書ではなく啓蒙書であるならば、自分がその責務の一端を負わねばならない立場にあるのでは...」と思い至り、宇宙の環境下で起きるからだの変化につい て誰もが理解しやすい一般書として執筆させていただきたいとお願いした経緯があります。
細分化が進んでいる現代の医学研究では、自分の研究領域については理解していますが、少し領域がはずれると、ほとんどお手あげの状態となります。まして宇宙の医学ともなれば、宇宙の環境を良く理解し、臨床医学から基礎医学、生物学まで幅広い知識が要求されます。躊躇して当然です。本来、それぞれの研究領域で宇宙に興味を抱く専門家が分担して執筆すべきものなのです。
幸い、教科書ともなる著書が欧米で出版されており、また私自身、いまだ宇宙医学生物学研究の歴史の浅いわが国において早期から世界の動向を見てきたこと、さらに貴重な宇宙実験を自身で経験したことから、比較的正しく現状を把握できていることが救いでした。 本著の最後に関連する主要図書や日本の宇宙医学生物学研究の活動に関する情報を簡単に紹介しておきました。本文では、「なんだ。ここのところは英語テキストそのままじゃないか」とお叱りを受ける箇所が随所にあります。また、「ここのところは正確じゃない」「現在ではもっと進んでいるぞ」「このことが触れてない」とご指摘を受けそうな箇所も多くありそうです。本著に刺激されて、より充実した啓蒙書が現われることを期待したいと思います。
雑用をこなしながら書き始めてみると予想通りに難しく、半年ほどで概略をまとめる目標がついに1年を越してしまいました。忍耐強く待っていただいた南山堂のスタッフに厚くお礼申し上げます。
1998年 6月
著 者
目次
1 宇宙の環境
真空の世界
生活圏と生存圏/血液が沸騰する/どこから宇宙?
無重力の世界
好奇心が旺盛で、純粋な子供たち/地上で無重力をつくる/どのようにして体重を測る?/換気ファンを止めないで!
極寒と暑熱地獄が背中あわせ
宇宙放射線シールド
2 有人宇宙船の歴史
旧ソ連/ロシアの有人宇宙船
アメリカの有人宇宙船
3 無重力への挑戦
変化する感覚の世界
どちらが "上" でどちらが "下"/「真正面」,「直立」,「水平」/目の動きを調べる
宇宙酔いの話
「宇宙酔い」とは/地上の酔い―動揺酔い―/宇宙酔い発症のメカニズム―感覚混乱説―/鯉の宇宙酔い実験
体液の頭方移動
地上シミュレーション/中心静脈圧が高くならない不思議/尿量が増えない不思議/起立耐性の低下/心肺への影響
血液も変化する
宇宙貧血/免疫機能が低下する
細胞も変化する
骨とカルシウム代謝
「血漿100ミリリットル中10ミリグラム」の命綱/飛行中つづく負のカルシウムバランス/骨が弱くなる
廃用性の筋萎縮
筋線維の構成が変わる?/筋収縮蛋白が分解をはじめる?/求められる宇宙用の運動処方
"おいしい" 食事から "たのしい" 食事へ
4 第二の地球を求めて
スペースステーションの居住生活
無重力下の生活は不便/船内の衛生モニター/「サラダ・マシーン」計画/宇宙船内での睡眠は快適?
船外活動と宇宙服
最小の宇宙居住装置―宇宙服―/EVAの将来
宇宙放射線への挑戦
宇宙放射線の3つの起源/"からだ" への影響を早く調べなくては/方策がないわけではない
「バイオスフェア2」実験
予期しなかった出来事/肉体的健康と精神的健康
むずかしい "こころ" の問題
旧ソ連の経験から/地上の社会生活にも共通する精神的ストレス
宇宙旅行の実現に向けて
日本ロケット協会宇宙旅行研究委員会
「地球人」から「宇宙人」へ
無重力への適応/人工重力による対応/「宇宙人」の誕生
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書籍情報
- ISBN:9784525120818
- ページ数:180頁
- 書籍発行日:Invalid date
- 電子版発売日:2011年5月31日
- 判:新書判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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