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ハームリダクションアプローチ ~やめさせようとしない依存症治療の実践

成瀬 暢也 (著)

株式会社 中外医学社

204 頁  (2019年6月)

Android 対応製品 iOS/iPhoneOS対応製品

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リリース日: 2019年07月03日

依存症は病気である。懲らしめてよくなる病気はない。

やめさせることを目的とせず,患者の苦しいこと,困っていることを一緒に考えること.使っている薬物が違法であろうがあるまいが患者を支援すること.これこそが「ハームリダクションアプローチ」である.人権を尊重したハームリダクションの考え方こそ,依存症治療の基本とすべきである.

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やめさせることを目的とせず,患者の苦しいこと,困っていることを一緒に考えること.使っている薬物が違法であろうがあるまいが患者を支援すること.これこそが「ハームリダクションアプローチ」である.依存症は病気である.懲らしめてよくなる病気は無い.人権を尊重したハームリダクションの考え方こそ,依存症治療の基本とすべきである.


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はじめに

依存症患者への対応のコツをひとつ上げるとしたら,それは「やめさせようとしないこと」である.この逆説的ともいえる対応に,依存症という病気の本質がみてとれる.

患者は,やめたいと思っている.そして同時にやめたくないと思っている.この両価性を理解していないと,治療者は誤った対応をしてしまう.たとえば,治療者が患者に対してやめさせようとする思いが強いと,患者はその思いと同じくらい,あるいはそれ以上にやめさせられないように抵抗する.つまり,やめない方向に患者を強化することになる.

逆に,やめることを強要しなければ,それだけで良好な関係を維持しやすくなる.治療者や家族からアルコールや薬物の話題を出されるたびに,患者は不快な表情を浮かべて身構える.それをやめるだけで両者間の緊張は軽減されるはずである.「依存症は意志の力ではコントロールできなくなる病気です」と患者に説明しておきながら,やめさせようとすることは矛盾している.患者に,「やめなさい」ということは,自分で何とかする問題だというメッセージである.患者は「突き放された」,「自分で何とかするしかない」と思うであろう.

家族や治療者が,患者に対してアルコールや薬物を力づくでやめさせようとしたり,飲酒や薬物使用を責め立てたりすると,容易に対立が生まれ,両者の関係が崩れていく.つまり,回復のためには信頼関係を築いていくことが不可欠であるのに,信頼関係が損なわれていく.患者はさらに孤独となり,自尊感情は傷つき,追い詰められていく.追い詰められた患者は,否応なく飲酒や薬物使用に向かうことになる.これまで,家庭や医療現場で繰り返し行われてきたのは,このような現象であろう.

患者の回復を強く願う家族ほど,この悪循環のサイクルに陥りやすく,同様にそれは治療者が犯しやすい失敗でもある.それでは,どうしてこのようなことが起きるのであろうか.それは,頭ではわかっているように思えても,実際には,「依存症はコントロール障害を主症状とした病気である」という基本的な理解ができていないからである.つまり,患者がその気になれば,アルコールや薬物をやめることができると思っているからである.家族や治療者が,依存症という病気の正しい理解ができていないことが最大の問題であると言えよう.

このような状況で世界に目を向けると,フィリピンにおける薬物乱用者の大量虐殺の報道の一方で,欧州などでは,違法薬物所持の非犯罪化,非刑罰化に移行している国々がある.また,わが国でも米国のドラッグコートを参考にした刑の一部執行猶予制度が施行され,刑罰一辺倒から支援への一歩を踏み出した.そして,現在ハームリダクションの考え方が臨床に導入され始めている.

わが国はハームリダクション政策に対しては,先進国の中でも消極的な国の代表であるが,ハームリダクションの考えに則った依存症治療や支援は,きわめて人道的であり,患者の主体性を尊重した,理にかなったものである.そして,治療効果にも優れていることが報告されている.

わが国では,依存症患者に対する誤解と偏見,スティグマは深刻であり,それは有名人の依存症に基づく飲酒問題,薬物問題に対する国を挙げての激しいバッシングにみてとれる.法に触れる行為は犯罪であり,当事者は責任を負うべきであるとする考えは理解できる.しかし,一方で,当事者は依存症に罹患している病者であるという視点が全く抜け落ちている.

依存症は病気である.懲らしめてよくなる病気はない.むしろ悪化するであろう.わが国では,いまだ依存症患者に対する適切な治療・支援は広がっていない.人権を軽視した医療は,正しい医療とは言えない.依存症患者の基本的人権が尊重されているとは言い難いわが国の現状を考えると,人権を尊重したハームリダクションの考え方こそ,これからの依存症治療の基本とされるべきである.


2019年5月

成瀬 暢也


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第1章 ハームリダクションとその考え方

ハームリダクションとは何か

ハームリダクションの歴史

政策としてのハームリダクションとその効果

ハームリダクションの考え方とは  〜人権を尊重した支援〜

アルコール依存症治療構造改革とハームリダクション

第2章 依存症は病気である

風鈴とクーラーの話から依存症を理解する

やさしい脳科学から依存症を理解する

依存症の定義・診断基準から依存症を理解する

どうして依存症は病気と理解されないのだろうか

依存症は病気であることの正しい理解の重要性

第3章 依存症患者の背景にあるもの

生育環境における影響について

依存症患者の背景にある対人関係の問題

依存性物質がもたらしてくれたもの

物質による孤独な自己治療の結果としての依存症

第4章 依存症患者を理解する

依存症患者によくみられる具体的な特徴

依存症患者を理解した支援

第5章 依存症治療とはどのようなものか

治療関係づくり

治療の動機づけ

精神症状に対する薬物療法

解毒・中毒性精神病の治療

疾病教育・情報提供

行動修正プログラム

自助グループ・リハビリ施設へのつなぎ

生活上の問題の整理と解決の援助

家族支援・家族教育

第6章 依存症からの回復に大切なもの

安心できる居場所と信頼できる仲間があって人は癒される

荒海をひとり漂流する命綱がアルコールであり薬物である

第7章 エビデンスに基づいた依存症治療から得たもの

マトリックスモデルを取り入れたSMARPPの導入

海外で実践されている心理社会的治療

第8章 これまでの依存症治療 ーやめさせようとする依存症治療

第9章 ハームリダクション臨床  ーやめさせようとしない依存症治療

やめさせようとしない依存症治療とは

当センター外来での患者の意識調査から

アルコールや薬物を手放すことの困難さ

患者に断酒・断薬を強要してはいけない理由

やめさせようとする治療とはどこが違うのか

第10章 ハームリダクション臨床の実際

「ようこそ外来」の実践  〜ハームリダクション外来〜

LIFEプログラムの実際  〜ハームリダクション外来プログラム〜

入院治療の実際  〜入院治療のハームリダクション化〜

第11章 ハームリダクション臨床実践の留意点

誰にでもできる依存症の診かた:「7つの法則」

ハームリダクション臨床を行う際の留意点

誰も傷つけず誰も傷つかないハームリダクション臨床  〜筆者の経験から〜

第12章 ハームリダクション臨床の具体的方法と事例の提示

ハームリダクション臨床の具体的方法

ハームリダクション臨床の実際のやり取り

ハームリダクション臨床事例の治療経過  〜治療困難例の対応から〜

第13章 ダルクとハームリダクション

ダルクの活動が示していること

ダルクの優れた点と問題点

ダルクとハームリダクション

ダルクに学ぶこれからの回復支援

第14章 自助グループとハームリダクション

第15章 患者の人権に配慮した「尊厳あるひと」への支援

依存症患者の尊厳は守られているか

スティグマ問題の深刻さを想像してみよう

どうすれば依存症患者の尊厳が守られるのか

陰性感情,忌避感情,スティグマから解放されるために

第16章 ハームリダクションの視点からみた家族支援

第17章 他の精神疾患へのハームリダクション臨床の応用

第18章 現代社会とアディクション

第19章 「ようこそ外来」の現在


おわりに


文献


索引

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