この本は医師の皆さんや医療スタッフの皆さんが，外国人の患者さんに英語で対応するときに困らないための必要最低限の基礎的表現とコミュニケーションおよび英語のヒントをまとめたものです。医療面接に始まり，診察，検査，診断結果の説明，治療法の説明，処方薬の説明，次回の予約まで，基本的な場面ごとに表現がまとめられています。巻末には「穴埋め問題で覚えよう̶重要表現100選！」を載せ，簡単に暗記できるようにしてあります。

この本にある表現は，医療関係者向け英語学習サイトMediEigo（メディエイゴ）で，2009年から2年間にわたって「使えるワンフレーズ」として毎週１つずつ紹介させていただいたものです。

筆者は，「使えるワンフレーズ」の開始前，2006年から4年間にわたって，東京女子医科大学医学部で英語による模擬医療面接実習を実施していました。その経験をもとに，どんな英語表現を知っていれば必要なことが聞けるかという観点から，表現を精選してあります。

この本の中には，同じ日本語にいくつかの英語が対応していたり，その逆もあることに読者は気づかれることと思います。英語と日本語の表現は1対1という対応で捉えるべきではなく，全体の流れの中で意味やニュアンスが決まってくる場合もあります。もし，同じ日本語に複数の英語表現が対応していたら，是非，いくつかの表現を覚えられることをお勧めします。それが積み重なって英語の力になっていくからです。

外国で具合が悪くなったとき，誰しも大変不安な気持ちになると思います。そんなときに医療スタッフがよくわかる思いやりのある言葉で対応してくれることで，どれだけ心強く感じられるかわかりません。コミュニケーションは癒しの第一歩です。

外国人の患者さんの心に寄り添うためには，言葉だけではなく，患者さんの背景にある文化を理解することも大切です。納得するまで質問を繰り返すのが当然という文化背景をもつ人もいます。そのような場合には，時間はかかっても誠意を尽くして質問に答えることも必要でしょう。

この本で覚えた表現が，医療スタッフの方たちが外国人の患者さんに心を尽くして医療を行うためのほんの少しの助けになったならば，著者としてそれほど嬉しいことはありません。

最後に，東京女子医科大学で英語模擬医療面接実習を力強く継続してくださっている英語研究室・遠藤美香先生，実習に際し多大なご指導をいただきました医学教育学・吉岡俊正教授に感謝の意を捧げます。

2012年 2月

野田 小枝子