CIRCULATION Up-to-Date Books09 ACE阻害薬を使う深い理由

  • ページ数 : 176頁
  • 書籍発行日 : 2015年10月
  • 電子版発売日 : 2015年10月9日
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商品情報

内容

なぜそこでその薬剤なのか?腕利き臨床家の治療戦略がみえる9症例

高血圧治療の中心であったACE阻害薬はARBにその座を奪われたが、本来は降圧作用の比較だけでACE阻害薬を否定してはならない。
あの先生はACE阻害薬のどこに魅せられているのか?それぞれの有用性を再認識し、9の症例からその治療戦略を公開する。

CIRCULATION Up-to-Date Booksシリーズ

序文

はじめに

一枚の処方箋に込められた思い

処方箋を見ると処方した先生の考え方がよくわかる.そこには,医師としての知識,経験,そして実力の全てが凝縮されている.しかし,薬剤の種類は多い.それをどのように取捨選択していくのか,日々苦悩している医師もまた数知れず.......

現代はEvidence-based Medicine (EBM) の時代である.エビデンスを重視することは当然であるが,一方でそれはあくまで"多数例(mass)"の結果であり,そのmass もどういう集団なのか,人種や年齢,さらには男女の構成などはどうか,疑問に思うことも度々である.果たして,いま,診察室で自分の眼の前に座っている患者さんにその薬が合うのかどうか,特に重症の場合などは誰しもが不安である.じつは,むしろ不安を感じる先生ほど有能で,優しい先生なのだが.......

処方する際には,薬効だけではなく,じつに雑多な,あるいは些細なことも考えるものである.例えば,「ふところ具合を考えると安い薬を使ってあげないと」「新薬が出たが,患者さんは慎重派で新薬を嫌うなあ」「この薬はよく効くと思うが,もし少しでも副作用が出たら後の処理がたいへん」「他の病院からも薬をもらっているらしいが,詳細不明」「長期処方を希望されるが,副作用が気になる」「検査情報がない,基礎疾患がわからない」「血圧200/100,でも,すぐ帰るといって聞かない」「血圧が下がらない,でも薬の選択肢がもうない」「突如来院された独居の90歳.薬を出して本当に大丈夫か」「海外からの旅行者,帰国までもたせるには」「種々の臓器の調子が悪い,処方の順番は」「大混雑の外来での重症心不全,急場を凌ぐには」......などなどである.たくさんの修羅場をくぐって来た百戦錬磨のベテラン医師もおられるであろうが,一枚の処方箋に辿り着くまでには冷や汗たっぷりのドラマが詰まっていることも少なくない.

もちろん,どんな優れた先生の処方でも常にうまくいっているはずはなく,後悔の連続かもしれない.しかし,そんななかでもホッとする一瞬がある.次の外来で,「先生,ずいぶん楽になったよ」の一言を聞いたときである.


ACE 阻害薬という"少し癖があるが頼りになる相棒"

ACE 阻害薬という薬剤がある.この10 年間ほどはARB に席巻され,影が薄い存在であったことは否めないが,最近になり「やはりACE 阻害薬は素晴らしい」といった意見が聞かれるようになった."咳"という副作用が時に生じるが,その有効性を改めて感じている医師が増えている.もちろんブームに流されず,昔からずっとACE 阻害薬にこだわって処方している医師が私の周囲には数名いる.じつは,その先生方のお考えはいつも全く"ぶれない".なぜACE 阻害薬にこだわって処方するのか,おそらく何か強烈なメッセージを薬から受けているに違いない.非常に感受性の鋭い先生方であり,本当の名医なのであろう.もちろん常によく勉強されていることは言うまでもない.

歴史を紐解くと,ACE 阻害薬は蛇毒から生まれた薬である.よって,その薬理作用は興味深く,現在でもあまりよくわかっていないことも多い.ACE 阻害薬をどの疾患に使うのか,何の目的で使うのか,その投与量は,タイミングは,副作用は,他の薬との飲み合わせは,など疑問は多いだろう.薬の歴史が長いので,種々の臨床報告は多いが,まさに経験がものをいう薬剤でもある.

ACE 阻害薬で全ての循環器疾患が改善するわけでは決してない.しかし,その位置づけはきわめて重要である.時には中核となる薬剤となりうるが,場合によっては他剤の"サポーター"に徹することもある.そして副作用が若干ながら見受けられる.この"少し癖があるが頼りになる相棒"とうまく付き合っていただき,特徴をよく理解して,それを必要としている患者さんのもとへ的確に届けていただければ嬉しいことである.


薬から見えてくる生体の不思議

ACE 阻害薬に興味をもつ先生方は,おそらく高血圧や循環器系が専門の先生方であろう.心臓は"ポンプ"であり,シンプルな筋肉の塊で単純な構造をしているように昔は思われていた.ところが,いったん心臓がその力を弱めると,心臓の"顔"は大きく変わる.ポンプであったはずの臓器が,何と,ホルモンをたくさん出し始めるのである.その代表がANP,BNP である.これを発見したのは,松尾・寒川 両博士のグループであり,日本人の医学への偉大なる貢献の例である.まさに心臓,そして血管はいまや立派な"内分泌器官"と考えられている.

心臓が悪いとどうなるのか,その病態生理の研究は確実に進んでいるが,ゴールはいまだ見えてこない.そういったなかでも,われわれは眼の前の患者さんを治療しなければならない宿命にある.そもそも無理難題,答えのない課題と戦っているのかもしれない.

ACE 阻害薬などの優れた薬剤を使うなかで,生体の不思議さに気づかされることがある.観察力の鋭い医師,先に述べたACE 阻害薬ファンの先生方は,じつは生命現象の神秘さえも,わずかでも見抜いておられるかもしれない.なぜならACE 阻害薬とは生体内のホルモンを動かす薬剤である.心臓はホルモン臓器であり,きっと,ANP, BNP を含めて種々の心血管ホルモンが変動しているに違いない.もちろん謎だらけではあるが,"揺さぶられる"ことで何かが変わってくるはずだ.難しい検査をしなくとも,診察だけでも何かがわかるかもしれない.それに気づき,しっかりと受け止める感受性がほしいものである.それは教科書にいまだ書かれていないことだらけだろう.筆者は,"優れた薬剤は生命現象を解き明かすきっかけにもなる"という考えをもっている.

じつは,本書は単に薬の使い方の実用書に留まるものではない.むしろ,未知の生命現象を解き明かすことへの興味を掻き立てることも目指している.本書を手に取った先生方,薬剤師の方々,医学研究者の方々,あるいは医学・薬学専攻の学生さんが,ACE 阻害薬を通して"生命現象は不思議で面白い"と少しでも感じていただければ幸いである.


2015年8月

東京慈恵会医科大学内科学講座

循環器内科 主任教授

吉村 道博

目次

・はじめに

・執筆者一覧

【第1章 History&Future】

・ACE(ACE阻害薬)の歴史:キマーゼなどを含めて

・[コラム(1)] ACEとACE2の「いま」と「これから」

・[コラム(2)] 酵素阻害薬への期待

【第2章 Philosophy】

◆1.高血圧とACE阻害薬

・[概論] RAA系の位置づけを再確認し,ACE阻害薬の効果を再考する

・[症例(1)] 腎機能が保たれた糖尿病合併の高血圧

・[症例(2)] 腎機能が保たれた高齢者の高血圧症例

・[症例(3)] 慢性腎臓病(CKD)合併の高血圧

・[コラム(3)] ACE阻害薬が使えない場合:Ca拮抗薬に期待するRAA系抑制効果!?

・[症例(4)] 少量利尿薬とACE阻害薬が奏功した症例


◆2.心不全とACE阻害薬

・[概論] 心不全におけるRAA系の位置づけとACE阻害薬の意義

・[症例(5)] 腎機能の保たれた拡張型心筋症の場合

・[症例(6)] 腎機能が保たれた心肥大を伴う高血圧心臓病の場合

・[症例(7)] 腎機能の保たれた拡張不全の場合

・[症例(8)] 腎不全(CKD)合併の心不全の場合


◆3.虚血性心疾患とACE阻害薬

・[概論] 世界基準からみたACE阻害薬の使い方

・[症例(9)] 腎機能の保たれた心筋梗塞後の症例の場合


◆4.ACE阻害薬の効能と副作用

・国内承認・未承認のACE阻害薬をすべて解説


・おわりに ~良薬口に苦し~

・索引

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書籍情報

  • ISBN:9784840454537
  • ページ数:176頁
  • 書籍発行日:2015年10月
  • 電子版発売日:2015年10月9日
  • 判:A5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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