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人間関係の生涯発達心理学

大藪 泰, 林 もも子, 小塩 真司, 福川 康之 (著)

丸善出版 株式会社

192 頁  (2014年9月)

Android 対応製品 iOS/iPhoneOS対応製品

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リリース日: 2018年03月30日

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生涯にわたる人間関係と発達を解説するテキスト。

生涯という時間の流れのなかで、精神生活の移り変わりを、相互に比較可能な視点から、一定の展望ができる世界として描き出す。各章末には第一線の研究者による最新のコラムも17個掲載。

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生涯にわたる人間関係と発達を解説するテキスト。 人生80年の時代を迎え、成人期以降の生き方をどうとらえるかは大きな問題になっている。本書の特色は、従来発達心理学が得意だった児童心理学だけでなく、生涯の発達段階を胎児期から高齢期までを扱っていること点。生涯という時間の流れのなかで、精神生活の移り変わりを、相互に比較可能な視点から、一定の展望ができる世界として描き出す。 各章末には第一線の研究者による最新のコラムも17個掲載。


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はじめに

人間が生きるということは,個としての生命を生き,関係としての生活を生きることです.人間が経験する他者との関係は,他の生物が経験するそれとはおそらく非常に異なっています.それは赤ちゃんの時代からそうだと思います.

生まれたばかりの赤ちゃんを想像してみてください.赤ちゃんは誕生によって母体から切り離されます.そして母親とは異なる身体をもつ個体として生きはじめます.しかし,人の母と子の身体にはきわめて豊かな情動が組み込まれています.それゆえ,どちらかが微笑めば,相手も自然に微笑むというように情動が共鳴し合い,二人の身体にはほぼ自動的に同じような振る舞いが生じます.その様子を見ていると,二つの身体はあたかも一つであるかのように感じられます.人間の身体には,他者と共感しながら結びつき,お互いの体験世界を共有しあおうとする情動が赤ちゃん時代から働いているからです.

このような身体に宿り,身体と一緒になって働く赤ちゃんの心は,いつしかこうした共有世界を基盤にして,より高次な精神活動の構築を目指すようになったと考えられます.情動的に共鳴し合う自他の身体に出会い,自分の情動を反映し返してくれる他者と関わるとき,赤ちゃんは自分が他者に向けるのと同じ精神的経験を他者にも見いだすのです.そこには,自らの視点を身体から切り離し,共同世界を構築する「自己」や「他者」に気づき,それらを鳥ちょう瞰かん的に見る萌芽的な視点が出現しています.さらに赤ちゃんは,自分の身体に生じた情動に気づき,その気づきは情動の共鳴性を梃て子こ にして他者の心の世界に対する気づきを深めてもいきます.こうして人の心は,自己や他者,そしてモノという存在に気づき,それらを明確に切り分け,同時に結びつけながら,自らの生活世界を組織化していったのだと思います.なぜなら,自他の心の世界やその動き,それらとモノとの関係に気づくことは,他者の意図や願いを読み,他者が将来行う可能性がある行動に対して有効な対処を可能にさせることになるからです.それは,言うまでもなく,社会的な有能性と適応力を豊かにさせる能力にほかなりません.

自他の心の世界を同時に展望できる心を獲得した人間は,他者に話しかけるときも,他者から話しかけられるときも,心の中で自己の声を聞き,同時に他者の声を聞いています.つまり,自己の声には多くの他者がひそみ,他者の声には自己の声が反映されているのです.このように屈折した自他を経験する心の働きは,おそらく人間に特有なものだと思います.そこにはきわめて人間らしい喜びや悲しみ,そして苦悩が出現してくる機縁があります.

こうした心をもつ人間が他者との関係を生きるということは,自らがもつ欲求や願望の実現と他者のそれとをバランスよく統合させ,そこに自分らしい「意味」の世界を作りだすことです.そして,その意味世界を豊かなものに構築し続けてゆくことです.その意味構築のプロセスは,それぞれの発達段階に特有な生態環境のなかで複雑につむぎ出され,死をむかえるまで継続します.人は死ぬまぎわまで,命を喪失する過程と向き合う自己と出会い,親密な関係にあった他者を思い,意味世界を生き続ける存在なのだと思います.

発達心理学に生涯発達の視点が重要であることは申すまでもありません.事実,その視点は古くからありました.しかし,生涯発達心理学が心理学の世界に広く本格的に現れたのは近年のことになります.誕生してから,死を迎えるまでの人の心の発達を描き出すことは,それが自らの心であるがゆえに難しいことなのです.

生涯発達心理学というとき,それは単に受精から死に至るまでの精神機能の特徴を,時間軸に沿って発達段階別に論じればよいわけではありません.子どもの発達を一つの章として論じ,そこに成人や高齢者の心理を扱った章を継ぎ足せば生涯発達心理学になるわけではありません.生涯という時間の流れのなかで,幼少期から高齢期までの精神生活の移り変わりを,相互に比較可能な視点から,一定の展望ができる世界として描き出すことが必要になるからです.

本書は,人間に特有な心の世界を,自己/他者/意味が発現し,豊かな表象活動をとおして統合され続ける世界としてとらえ,そこに出現する特有な人間関係を発達段階ごとに吟味しながら,「生涯発達」という視点から展望しようとするものです.人間関係は,誕生から死まで,人間の心が連綿として気づかい続ける対象であり,また心の健康を支える重要な要因でもあるからです.

本書が想定する読者層は,人間の心の発達を初めて学ぼうとする学部学生などです.しかし,最新の知見も随所に記載されており,研究者にとっても新しい内容を備えています.人間の生涯発達に関心のある多くの方々に本書が活用されることを願っています.

コラムをご執筆いただいた皆様には,興味深い内容をお書きいただき,本書がカバーする領域を大きく広げることができました.また,丸善出版株式会社と企画・編集部の松平彩子さんからは,本書の作成をお勧めいただき,企画をこころよく受け入れていただきました.最後になりましたが,皆様に心より感謝申し上げます.


2014年8月3日

執筆者を代表して
大藪 泰


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第1章 発達心理学における生涯発達

1 児童心理学から生涯発達心理学へ

2 生涯発達と段階論

3 生涯発達と生態論

4 生涯発達と関係論

5 自己/他者/意味と生涯発達

コラム:アロマザリングから見た子どもの発達

第2章 胎児期

1 妊娠することの意味

2 妊娠から出産へ

3 胎児の運動と感覚

コラム:出生前診断とわたしたち

第3章 新生児期

1 乳児感の変化――無能から有能へ

2 泣き・目覚め・眠り

3 人を志向する感覚

4 微笑がもつ働き

5 新生児の自己感

6 新生児模倣と他者感

7 社会的脳

コラム:NICUの赤ちゃんの人間関係

第4章 乳児期

1 情動の働き

2 乳児の自己感

3 乳児の他者感

4 自己感と他者感の発生モデル

5 意味に気づくとき

コラム:重症心身障害児の人間関係

コラム:乳児期:赤ちゃんの食と人間関係

第5章 幼児期

1 表象・ことば・鏡像

2 心の理論

3 アタッチメント

4 家庭から地域社会へ

コラム:自閉症臨床からみた発達:SCERTSモデルの発達観

第6章 児童期

1 小学生になること

2 児童期のアタッチメント

3 自我と超自我を育てる,安心なアタッチメント関係

4 アタッチメントスタイル

5 集団同一性と不登校

コラム:施設で暮らす子どもの人間関係

第7章 思春期(青年期初期)

1 思春期の始まり

2 情動調整を助けるアタッチメント関係

3 思春期における孤独の体験

4 思春期の適応と不適応――防衛機能の視点から

コラム:SNSと思春期

第8章 青年期中期

1 青年期中期の特徴

2 仲間関係の広がり

3 自分自身を捉え直す

4 青年期中期の自己の再構築

コラム:親に感謝するこころ

第9章 青年期後期

1 青年期後期の特徴

2 大学生活の意義

3 異性との関係

4 就職

5 社会との関わりの中で

コラム:恋人を欲しいと思わない青年の特徴

第10章 成人期

1 結婚と離婚

2 親になること

3 成人期の課題

コラム:他者とのよりよい関係を築くための「キャリア」選択

第11章 前期高齢期

1 老化と老成自覚

2 高齢者としてのアイデンティティ

3 老成自覚とエイジズム

4 老年期の自尊感情

5 老成自覚と健康

第12章 後期高齢期

1 すすむ社会の高齢化

2 孤独になる

3 大切な人と別れる

4 人間関係を作り直す

5 老いた自分に寄り添う

コラム:死に対する態度と人間関係

第13期 超高齢期

1 寿命と人生の第9段階

2 パーソナリティの加齢変化と老年的超越

3 おばあさん仮説と世代間の互恵的関係

4 介護者と出会う

5 認知症の自分と出会う

6 幸福な老いを求めて

7 エピローグ

コラム:日本の百寿者研究

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