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- 循環器ストレス学
商品情報
内容
序文
―新分野"循環器ストレス学"設立の提案―
1995年 1月17日,阪神・淡路大震災の日,私は神戸大学循環器内科学教室から派遣され,ジョージア州アトランタにあるエモリー大学に留学中であった.そこでは,本書において Preface を執筆して頂いた David G. Harrison 教授が主宰する研究室において,循環器疾患病態形成における酸化ストレスの意義に関する基礎的な研究に取り組んでいた.震災のことは,その夜長崎にいる義父からの国際電話ではじめて知らされた.震災発生後 10 日ほどは神戸への連絡がまったくとれず,数少ない情報源を頼りに状況を知ろうと試みたが,得られた情報はほんの断片的なものであった.その中で,多くの人命が失われ,故郷 神戸が想像を絶する甚大な損害を被っていることを知り,遠く離れた地から何ら手助けができないことに腹立たしい気持ちで一杯であったことを今でも思い出す.
本書の中でも述べられているが,震災後,急性心筋梗塞の発症が急激に増加した.これは精神的ストレスや社会的因子が,循環器疾患の発症に大きく関与していることを示す一例である.私はこれを契機に,これまで研究のテーマとしていた酸化ストレスだけではなく,精神的ストレスにも強い関心を持つようになった.帰国後,循環器診療と基礎研究を平行して行っていくなかで,ストレス応答が循環器疾患の病態にいかに重要な役割を果たしているかを再認識した.こうしたなか,多くの方の助言のもと,ストレスを包括的に捉えることによって,循環器疾患の病態に新しい見方ができるのではないかとの発想より,本書が誕生した.
生体は恒常性を保つために,ストレッサーに対して適応反応(ストレス応答)を起こす.初期はそれが功を奏し恒常性が維持されるが,ストレスが遷延化し持続する場合は,系が疲弊し適応反応が破綻していく.こうした場合,ストレスは疾患の要因となり,増悪因子となる.ストレス学説の創始者であるHans Selye は,この流れを「汎適応症候群」として記載した.循環器疾患を考えた場合,心血管系はさまざまなストレスが負荷される.心臓の拍動,血液の流れに起因するメカニカルストレスに対して,心筋細胞,血管細胞は応答する.糖尿病,脂質異常症,高血圧などの冠危険因子は,心血管系において酸化ストレスを亢進させる.また精神的ストレスは,循環器疾患の病態形成にきわめて重要であることはいうまでもない.本書は,循環器疾患の病態およびその成因に関わる生活習慣病を,ストレスの観点から包括的に考察し,"循環器ストレス学"として,新たに系統的,体系的にまとめることを目的としている.各項では専門家の方々に最先端研究の知見も踏まえながら,わかりやすく執筆して頂いた.
これまで循環器病学は,生理学,病理学,生化学,さらには分子生物学,分子遺伝学的な見地から深く掘り下げられ,その病態が明らかになってきた.これらの積み上げられてきた知見を基盤として,ストレス応答の観点から,横断的,包括的に考察し,それにより確立された"循環器ストレス学"が,循環器病学だけではなく,医学の進歩に貢献することを強く期待している.そして本書が"循環器ストレス学"の起点となり,この学問が幅広く進展することを願っている.
最後に,本書の発行にあたり尽力して頂いた南山堂編集部の秡川 亮氏,岩崎 剛氏に心から感謝申し上げる.
2010年 1月
神戸労災病院循環器科 部長
井上 信孝
目次
●Preface(David G. Harrison, Susmita Parashar)
総論
第I章 ストレス応答とは
ストレス応答の概念とストレス学の歴史(井上信孝)
ストレス応答とは
ストレス学の先駆者たち「闘争か逃走か」
特異的なものと非特異的なもの
ストレス学説の誕生
汎適応症候群
ストレス関連疾患と汎適応症候群
慢性ストレスと急性ストレス
個体レベル,臓器レベル,細胞レベルにおけるストレス応答
第II章 循環器疾患に関連するストレスの概要
1 酸化ストレス(井上信孝)
循環器疾患に関連するストレス応答
酸化ストレス
動脈硬化危険因子と酸化ストレス
心血管系における活性酸素種産生源としてのNADPH オキシダーゼ
心血管病と NADPH オキシダーゼ
NADPH オキシダーゼ p22phox 遺伝子多型性と心血管病
炎症と酸化ストレス
2 精神的ストレス(井上信孝)
精神的ストレスと心血管病
精神的ストレスが心血管病を引き起こすメカニズム
心血管病のストレスマネジメントの重要性
3 メカニカル(機械的)ストレス(井上信孝)
血管とメカニカルストレス
ずり応力による遺伝子発現調節機構
高血圧と血行力学的外力
心血管リモデリングと血行力学的ストレス
メカニカルストレスと酸化ストレスのクロストーク
心臓とメカニカルストレス
4 ストレス研究の課題(井上信孝)
心血管病治療薬としての抗酸化剤の限界
ストレスを評価するバイオマーカーの確立の必要性
精神的ストレスの評価法とストレスマネジメント
高齢者におけるストレス応答
各論 1(基礎医学の視点から)
第I章 細胞種別におけるストレス応答
― 内皮細胞 ―
1 血管内皮細胞と酸化ストレス応答(深井透)
血管内皮細胞の概要
血管内皮細胞の活性酸素種産生機構
血管内皮細胞における酸化ストレス応答
活性酸素種,内皮機能,および循環器疾患
内因性抗酸化システム[特に extracellularsuperoxide dismutase(ecSOD)],
内皮機能,および循環器疾患
2 血管内皮細胞とメカニカルストレス応答(安藤譲二,山本希美子)
血管細胞に作用するメカニカルストレス
ずり応力に対する内皮細胞応答
伸展張力に対する内皮細胞応答
メカニカルストレスの感知機構
循環調節に果たすずり応力の役割
― 平滑筋細胞 ―
3 血管平滑筋細胞と酸化ストレス応答(深井真寿子)
血管壁における主な活性酸素産生系― NADPH オキシダーゼ
血管平滑筋細胞における Nox ホモログの発現と機能―高血圧と動脈硬化との関わり
活性酸素依存情報伝達機構
NADPH オキシダーゼ阻害薬
4 血管平滑筋細胞とメカニカルストレス応答(飯塚健治,平藤雅彦)
血管平滑筋細胞への波動圧力負荷
エネルギー代謝に及ぼす作用
細胞増殖に及ぼす作用
NO 合成酵素に対する作用
アンジオテンシン変換酵素に対する作用
圧力負荷を受容するメカニズム
― 心筋細胞 ―
5 心筋細胞と酸化ストレス応答(高橋知三郎)
心臓と酸化ストレス
病的心での酸化ストレス反応
心筋再生と酸化ストレスの関連
6 心筋細胞とメカニカルストレス応答(山田充彦)
メカニカルストレスが心臓の電気生理に及ぼす効果
心肥大・心不全に関与するチャネル分子
― 血管 ―
7 血管機能とストレス応答(石橋敏幸)
血管機能と病態
ストレス応答とプラークの形成・破綻
内皮細胞への単球接着と LOX-1
MT1-MMP の酸化 LDL によるストレスへの関与
糖尿病性血管病変形成のシグナル伝達系における MT1-MMP の関与
― 血小板 ―
8 血小板機能とストレス応答(杉本充彦)
壁血栓と ACS 病態形成における血小板機能
ずり応力(shear stress)
酸化ストレス
精神的ストレス
― 脂肪細胞 ―
9 脂肪細胞とストレス応答
― 心血管病に対する脂肪細胞の関わりを中心にして ― (山内敏正,門脇孝)
心血管病における脂肪細胞の関わり
肥満の脂肪細胞において悪玉アディポカインが協調的・統一的に増加するメカニズム
善玉アディポカインの存在の可能性
AdipoR の生理的・病態生理的意義
アディポネクチンと MCP-1 の関係
脂肪細胞における酸化ストレスとインスリン抵抗性
脂肪細胞におけるインスリン作用と寿命
― 細胞間ネットワーク ―
10 細胞間ネットワークとストレス応答(倉林正彦,磯達也)
炎症性サイトカインや炎症反応蛋白による
ストレス応答ネットワーク
細胞-細胞相互作用による情報伝達
脂肪組織と心血管との間のネットワーク
第II章 ストレス応答による各系の変動と循環器疾患
1 ストレス応答による神経系の変動と循環器疾患(横山徹,上田陽一)
ストレスと情動反応
ストレスと自律神経系
ストレスと CRH,バソプレッシン
本態性高血圧
虚血性心疾患
不整脈
2 ストレスによる内分泌系応答と循環器疾患(井樋慶一)
ストレスによる内分泌系の応答
ストレスにより惹起される内分泌系応答と循環器疾患
3 ストレス応答による免疫系の変動と循環器疾患(磯部健一)
防御システムの発達とストレス
ストレスと免疫系,神経系,内分泌系,循環器系
動脈硬化と免疫
ストレス刺激と免疫-動脈硬化など疾患への関与の可能性
各論 2(臨床医学の視点から)
第I章 ストレス評価法
1 バイオマーカーによる酸化ストレスの評価(乙井一典,沢村達也)
酸化ストレスのバイオマーカーとは?
バイオマーカーとしての酸化 LDL と酸化 LDL 受容体 LOX-1
LOX-1 の診断への応用
炎症と酸化ストレス
2 精神的ストレス評価法(神原憲治,福永幹彦)
ストレスのシステム論
日常臨床でのストレス評価法
精神生理学的ストレスプロファイル(PSP)
心身症患者および機能性身体症候群患者における PSP の特徴
唾液中フリー・コルチゾール
心理テスト
PSP を中心とした精神的ストレス評価の例
3 心筋におけるストレス評価法(新家俊郎)
心室筋の挙動とメカニカルストレス
心室腔の形状,心室壁の運動からみた心ポンプ機能のストレス応答
左室圧-容積関係と心筋酸素消費量の関係
局所心室壁の応力(ストレス)とひずみの解析
冠動脈内皮機能障害と酸化ストレスが心筋機能に及ぼす影響
酸化ストレス,内皮機能障害と心筋リモデリング
4 心臓自律神経機能解析によるストレス評価法(塩谷英之)
心拍変動周波数解析
heart rate recovery(HRR)
心臓自律神経評価の臨床的意義
5 冠動脈における臨床的ストレス評価法(寺島充康,金田秀昭)
冠動脈造影
血管内超音波検査
光干渉断層法
血管内視鏡
ドプラガイドワイヤーとプレッシャーガイドワイヤー
コンピュータ断層(CT)血管造影・磁気共鳴画像(MRI)
第II章 循環器疾患・腎臓疾患とストレス応答
― 血管 ―
1 血管内皮機能障害とストレス応答(川嶋成乃亮)
血管内皮における活性酸素種と NO の相反作用
種々の病態における内皮機能障害
臨床における内皮障害の判定
ベッドサイドでの内皮機能測定
NOS によるスーパーオキサイド産生
uncoupled eNOS 由来のスーパーオキサイドと血管病
BH4 の酸化と内皮機能
内皮特異的酸化ストレスマーカーとしての血中 BH4/BH2 比
2 動脈硬化とストレス応答(服部朝美,宗像正徳)
動脈硬化と心理,社会的ストレス
心理ストレスが動脈硬化を促進する機序
抑うつと動脈硬化性疾患
労働負荷(job strain)と血圧反応,動脈硬化
長時間労働とメタボリックシンドローム
3 ずり応力(shear stress)とプラークの不安定性(廣高史,平山篤志)
不安定プラークについて
ずり応力(shear stress)と動脈硬化
ずり応力分布のカラー表示法
ずり応力の分布とプラーク破綻
構造力学的イメージングの将来
― 心臓 ―
4 たこつぼ心筋症とストレス応答(土橋和文,長谷守)
概念
病態上の特徴と診断
現状の診断基準と類似病態
5 不整脈とストレス応答(岡嶋克則)
ストレスと心臓自律神経の関係
ストレスと心室性不整脈
ICD 植込み症例における精神的ストレス
6 心不全とストレス応答(絹川真太郎,筒井裕之)
心筋リモデリング
メカニカルストレス
酸化ストレス
精神的ストレス
― 腎臓 ―
7 慢性腎臓病とストレス応答(柏原直樹,佐々木環)
慢性腎臓病の概念
慢性腎臓病の発症・進展機構と酸化ストレス
第III章 生活習慣関連疾患とストレス応答
1 脂質異常症,メタボリックシンドロームとストレス応答(乙井一典,石田達郎,平田健一)
動脈硬化危険因子と酸化ストレスの関連
動脈硬化発症における酸化ストレスと高LDL-C 血症
LDL酸化と脂質過酸化物
メタボリックシンドロームと酸化ストレス
インスリン抵抗性と酸化ストレス
メタボリックシンドロームにおける脂質代謝異常と酸化ストレス
血管内皮リパーゼ(EL)とHDL 代謝
2 高血圧とストレス応答(江本憲昭)
高血圧と精神的ストレス
高血圧と酸化ストレス
3 糖尿病とストレス応答(金藤秀明,松岡孝昭)
糖毒性と脂肪毒性
ストレスシグナルと膵β細胞機能障害
ストレスシグナルとインスリン抵抗性
4 喫煙とストレス応答(橋本由香子)
タバコ煙とタバコ関連疾患
禁煙サポートとストレスマネジメント
第IV章 精神的ストレスと循環器疾患
1 情動ストレスと循環器疾患(久我原明朗,坪井康次)
情動ストレスによりどのような適応反応が生じるか
情動ストレスと循環器疾患の関連
うつ病と虚血性心疾患の関連性
性格傾向と循環器疾患について
2 心身症としての循環器疾患(佐々木順子)
心身症について
循環器領域における代表的疾患と心身医学的特性
循環器症状を訴える患者の診断から治療まで
3 職業性疾患としての循環器疾患(大西一男)
職場におけるストレス反応
職場のストレスと循環器疾患
情動(心理的)ストレス負荷試験
過重労働と過労死
職場におけるストレスが発症に関与したと考えられる虚血性心疾患症例
第V章 治療に関わるストレス応答
1 心臓血管外科治療におけるストレス(種本和雄)
心臓血管外科手術と生体ストレス
心臓血管外科医のストレスとその対策
2 救急領域における循環器ストレス(上田敬博,小谷穣治)
救急専従医が感じる循環器系ストレスとは
心理的ストレッサー
物理的ストレッサー
ストレスと上手に付き合う
第VI章 ストレスマネジメント
1 抗酸化治療の課題と展望(平瀬徹明,野出孝一)
酸化ストレスと動脈硬化
抗酸化ビタミン
酸化ストレスとスタチン
2 ストレスマネジメントと循環器疾患予防(今井克次)
ストレスと循環器疾患
ストレス下における循環器疾患発症のメカニズム
ストレスマネジメント
3 ストレス社会を乗り切る食事療法,生活習慣改善法(藤岡由夫)
酸化ストレス
精神的ストレス
その他,生活習慣における問題点
●総括 ストレスを抱えた21世紀の医療 ― その問題点と方策(横山光宏)
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書籍情報
- ISBN:9784525246617
- ページ数:386頁
- 書籍発行日:Invalid date
- 電子版発売日:2011年5月15日
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- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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