「はたらく」を支える!職場×発達障害

五十嵐 良雄 (編著)

株式会社 南山堂

184 頁  (2017年5月)

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リリース日: 2019年05月24日

「もしかして発達障害?」職場でのあなたのお困りごと,解決できます!

「なんとなく周囲に溶け込めない」「空気を読むのが苦手」…そんな悩みを抱える大人が増えているといわれる昨今,職場においてもこのような従業員と,その周囲の人々への対応に苦慮するケースも多い.本書は発達障害傾向のある事例を多数紹介し,専門外来に至るプロセスから職場復帰まで,職場の産業医が直面する判断に悩むポイントを押さえた.

■「はたらく」を支える!シリーズ
「はたらく」を支える!職場×双極性障害
「はたらく」を支える!職場×依存症・アディクション

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「もしかして発達障害?」
職場でのあなたのお困りごと,解決できます!


「なんとなく周囲に溶け込めない」「空気を読むのが苦手」...そんな悩みを抱える大人が増えているといわれる昨今,職場においてもこのような従業員と,その周囲の人々への対応に苦慮するケースも多い.本書は発達障害傾向のある事例を多数紹介し,専門外来に至るプロセスから職場復帰まで,職場の産業医が直面する判断に悩むポイントを押さえた.


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発達障害は増えているのだろうか?きっと,典型例は増えてはいないのだろう,しかしその傾向は薄いものの,すなわち診断基準は満たさないもののその傾向を持つ症例は,精神科の外来では増加しているといえるだろう.つまり,医療機関を受診する人が増えてきたということである.ということは,職場で産業医や産業保健スタッフにとっても,その傾向を持つ社員に遭遇する機会は確実に増えているという印象を持っているだろう.人事担当者でも発達障害という名前くらいは知っている時代である.すなわち,非常に身近になった.

この背景には,ここ数年の間に「発達障害」が世の中に広まったことがあげられる.わかりやすい解説本が多く出版され,マスコミでも取り上げられるようになった.たとえば,重度の自閉症の東田直樹さんの書いた『自閉症の僕が跳びはねる理由』(エスコアール刊)は一躍有名になり外国語にも翻訳されて世界中で注目されていることは記憶にも新しい.生まれてからずっと障害者として生きてきた発達障害者が一体どのようにものを感じて困っているのかを,他方のそうでない人間には,このような書物がないと自閉性スペクトラム障害や注意欠如多動症の世界がなかなか理解できない.これらの媒体の存在は,彼らの世界を知るきっかけとしてはとても大きい.

本書はこのような解説書の一つとして企画された.私たちは2003年に東京の虎ノ門に精神科診療所を開設した.開設後1年で約1,000名の新患の患者さんを診療した.彼らは診療所で診察できる程度に軽症な「うつ病」や「不安障害」であったが,多くの患者さんが会社に行けなくなり休職へと追い込まれていた.そのため家庭で療養しながら病状の回復を待って復職してもらったが,復職後すぐに再休職する例が多発したことから,復職のためのリワークプログラムを始めることを思いついた.2005年1月に開始以来,すでに12年が経過したことになる.

リワークプログラムにおいては一定時間の観察が集団の中において行われるため,発達障害によるコミュニケーション障害や双極性障害の軽躁状態などは比較的容易に見いだされることは当初から気がついていた.その点では,リワークプログラムは治療の場であるばかりでなく良き診断の場であると,かねてから指摘してきた.そのうちに発達障害のプログラム利用者が急激に増えてきた.ここ数年のことであろう.適応障害やうつ病の診断の下で転院してプログラムに参加する人たちに,典型的ではないものの発達障害の要素を持つ人たちが多いことに気づいた.そして発達障害として考えると,対人関係上でのコミュニケーションの下手さから,職場で不適応を起こして抑うつ症状を呈することは理解ができ,腑に落ちた感を強くした.

リワークプログラムはつねに進歩している.利用者のニーズに合わせてプログラム上で工夫を加えていく.発達障害の利用者が増えてきたため,彼ら用のプログラムができた.発達障害においては,その障害を本人が受容していることは,治療を行う上でも,また,就労を続けていく上でも最も重要なことである.こうしてソーシャル・スキルス・トレーニング(SSR)と呼ばれるプログラムが始まった.利用者の3割程度がこのプログラムに参加している.その中で同じような傾向で悩む仲間を知り,また,その悩みも個々にみると違いがあり,自分の特徴を明確にする大事さを知ることになる.そのようにして得られた自分の不得意な面と得意な面を知ることにより,業務や社会生活での影響を理解することができる.そして,復職時にその理解を会社にどのように伝えるかが大事であり,それが課題となってきた.その際に会社と利用者の間で調整をするコーディネーターが非常に重要であることを痛感した.それでもなかなか復職が今の社会の中では進まない.まだまだ不理解に基づくスティグマがあると感じる.

このノウハウを生かすべく,外来で発達障害専門外来を設けたのは5年前になる.対象は,すでに診断され治療をされている方は外し,大人になって初めて診断されるレベルの方を対象とした.大人の発達障害外来は昭和大学烏山病院がその先駆けであるが,非常に盛況を呈している.患者さんは全国からたくさん集まってくる.診断にも慣れてきた.しかし,課題は治療である.そのために用意したのが,マンスリーコムズである.月1回,土曜日にショートケアで行っている.テーマを決めて心理士のレクチャーのあと,小グループに分かれてディスカッションをする.毎回60~80名くらい参加するので数名のグループができる.その中で得ることが大きい.なにしろ自分と似た悩みを持つ人にはなかなか出会えない.そしてその人たちが工夫していることも聞ける.そこに参加して月1回程度の診療でフォローしていく.発達障害としての特徴は大人になって初めて現れるわけではなく幼小児期から存在し,今後もあり続けるものである.その点では本人にとって自分の特徴を改めて気づいて整理することは,これまで感じてきた生きにくさやうまくいかない人間関係の背景を理解するには必要欠くべからざることである.発達障害の専門外来で診断をすると「今までの謎が解けたようだ」という方にしばしば出会う.

リワークプログラムを長年続けていると,どうしても再休職したり,失職する方が一定の割合で発生する.再休職した場合,復職前のプログラムに戻すことはなかなかできず,8年ほど前から再利用者のためのプログラムを始めている.「リワーク・ゼミ」と名付けているが,そこでは双極性障害と発達障害の利用者で占められる.また,失職する方が外来にとどまりなかなか就労ができない状況を見て,4年前から就労移行支援事業所「ライフ&ワーク」を始めた.そこへは主に当院の外来で診療している方が多く利用しており,こちらもほぼ全員が双極性障害と発達障害で占められている.

このように工夫を重ね経験を積み重ねた結果として,いくつかの果実が実った.本書はその果実を集めて作成したものである.偶然とか思いつきではない相互連関した活動やプログラムであり,スタッフ一同の共同作業でできあがったものであることを強調したい.医療関係者ばかりではなく産業保健領域の方にとってもきっとお役に立てる部分があると考えている.


2017年3月

医療法人雄仁会 メディカルケア虎ノ門
五十嵐 良雄


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第1章 発達障害を正しく知り,対応する

1 産業精神保健分野における発達障害

A.職場における発達障害

B.事例性と産業医の視座

C.発達障害に見られる事例性

D.健康障害と就業面の配慮

E.就業面の配慮の限界

F.職場における発達障害者への対応と支援

 1.発達障害と確定診断を受け,障害者手帳を保持している者

 2.発達障害と確定診断を受け,障害者手帳を保持していない者

 3.発達障害が疑われ,職場で問題行動などが事例化している者

 4.職場でとくに問題を起こしていないが,産業保健職が接触を持つ中で発達障害が疑われた者

G.いわゆる「グレーゾーン」をめぐる問題

2 発達障害とは

A.発達障害の現状

B.さまざまな分野と発達障害

 1.発達障害と保健・福祉

 2.発達障害と教育

 3.発達障害と司法

C.発達障害の特徴

 1.その数の多さ

 2.外見からの課題の分かりにくさ

 3.発達障害の存在の境界は明確ではない

 4.外見上は課題が改善したように見えることもある

 5.家族的背景を持つことがある

 6.いくつかの発達障害が同時に存在していることは珍しくない

D.発達障害と診断

 1.操作的診断基準

 2.DSM-5について

E.発達障害と社会的対応

 1.さまざまな法律と支援

 2.発達障害と就労

F.発達障害をどう考えるか

G.発達障害における今後の課題

3 職場での対応~産業保健の役割を中心として~

A.発達障害傾向が見られやすい社会的背景と基本的対応法

 1.現代の社会的背景

 2.「発達障害傾向のある者」への基本的対応法

B.業務管理が基本

 1.業務遂行の状況を確認する

 2.業務遂行に問題を生じさせている要因を見つける

 3.発達障害の視点から見る

 4.事例性,疾病性,それぞれに対応する

C.連携の在り方について:監視カメラ型か鏡型か?

 1.監視カメラ型連携

 2.鏡型連携

D.医療につなげる・つながるとき

  ・クレームの電話を受けたことを契機に電話に出ることができなくなった

  ・体調不良のため欠勤が多く,周囲から孤立してしまった

  ・うっかりミスが多い,指示を守らない,仕事を放置してしまうなどについて叱責を受け,出社できなくなった

  ・特定業務の能力は高いが,それ以外の部下の育成・教育に関する業務はできず,周囲から不満が噴出し休職となった

4 企業での顧問医として見る発達障害

  ・リワークプログラムを通じて発達障害の存在が確認できたが,職場が障害性を理解できなかったため,再休職.その後再びリワークプログラムを利用し,障害者職業センターのジョブコーチ支援を導入しうまくいった

  ・強迫性障害.入社時から強迫症状が目立つが,背景に発達障害がありそうな社員.本人からはある程度の理解は得られたが,本人家族の受容が困難で将来が見えない

  ・注意欠如多動性障害(ADHD).本人のミスに激高した上司が暴力行為を起こして労災に認定.休職となったが,リワークプログラムに参加し,発達障害を受容した本人の経過は良好

  ・アスペルガー障害.数回の休職を繰り返しながら,異動して本社に戻るタイミングで発達障害と診断され,リハビリテーションプログラムに参加して,自己受容ができた

第2章 発達障害と分かったら~専門外来,心理療法,復職支援~

1 発達障害専門外来から見えること

A.当院の発達障害専門外来の概要

 1.専門外来で実施している評価尺度

 2.受診者の特徴

B.産業医,産業保健スタッフに知っておいてほしいポイント

 1.初診紹介時のポイント

 2.職場で問題となりやすいポイント

 3.学生と失職者の悩み

C.発達障害の診断に伴う問題

 1.情報の氾濫,過剰診断

 2.診断を受けることのメリット・デメリット

 3.発達障害と診断することの難しさの問題

D.産業医からの紹介を受けて

  ・発達障害の典型的な事例.重なる意思疎通不良やケアレスミスにより人間関係が悪化し,産業医より紹介を受けて外来へ来た

  ・発達障害と誤認された事例.意思疎通がうまくいかないことから発達障害を疑われ,産業医面談を経て当院外来へ紹介されてきた

2 リワーク外来から見えること

  ・苦手な業務の担当になり,周囲から孤立.仕事への意欲が低下して休職に至った

  ・リワークプログラムを経て復職したが,再休職して退職.その後,就労支援事業所に通所し,障害者雇用で非正規雇用から正規雇用を目指し,安定的な勤務につながった

3 発達障害の心理社会療法

  ・上司からの指示,同僚と話す内容を記憶することや,他者の気持ちを読むことが苦手で疲弊してしまい,うつ病と診断され休職に至った

  ・業務内容の変化,持病の悪化に伴い仕事上のミスが増えたり,他者の発言の真意(趣旨,意図)がつかめないことが多くなり,そのことで自己評価が低下し休職を繰り返す

4 コーディネーターによる復職時の会社との連携

A.会社との連携の必要性

B.会社との連携 <成功事例>職場内で問題を抱える中で抑うつ症状が出て休職となった.リワークプログラムに参加し,ADHDと診断され,コーディネーターとの連携で職場復帰ができた

C.会社との連携 <失敗事例>家庭環境の影響もあり対人関係への緊張,不安が大きく,仕事が手に付かない状況で自宅療養しリワークプログラムへ参加

D.リワークコーディネーターの視点による連携の流れと注意点

E.会社との連携におけるリワークコーディネーターの役割

F.より良い連携に向けて

第3章 発達障害に有効な外的資源を活用する

1 企業を支援するCAPでの取り組み紹介

  ・復職に際し障害者職業センターの「就労準備支援」を利用したケース.慣れない管理業務や仕事の失敗から自信を無くし,業務遂行が困難となり休職になった

  ・コミュニケーションスキル不足から部下の統率が困難となり休職.復職に際しリワーク・トライアルを利用し,発達障害が疑われた

2 発達障害とストレスチェック制度との関連

A.ストレスチェック制度における面接指導の概要

B.発達障害の特徴

 1.強いこだわり

 2.社会性の障害

 3.コミュニケーションの障害

C.発達障害を持つ従業員に対する職場の評価

D.面接指導後の対応

E.発達障害とストレスチェック制度との関連

3 就労移行支援事業所での発達障害の就労への取り組み

A.就労移行支援事業所とは

B.就労移行支援事業所「ライフ&ワーク」の事業活動

C.「ライフ&ワーク」の利用規定と利用者の特徴

 1.一般就労と障害者就労の違い

 2.プログラム

 3.主治医との連携

 4.スタッフに関して

 5.企業との連携

 6.採用面接の実際

D.就労移行支援事業所における発達障害の事例

  ・大手企業に就職するが度重なるミスがきっかけで退職となり,その後,障害者雇用で再就職した

  ・大学院を休学中に就労移行支援事業所を利用して,障害者雇用での採用につながった

  ・発達障害を隠しての就職を目指したが,生活リズムが安定せず,途中で通所を中止することになった

  ・障害受容はできていたが,障害者雇用に抵抗感があったため,人材紹介会社に登録して「障害者」を伏せたクローズで就職した

  ・大学に進学後,勉強についていけなくなり,自宅に引きこもってしまった.休学中に当事業所に通所したが,途中で通所できなくなり中止となった

E.障害者雇用を受け入れている会社の声

 1.大手企業特例子会社(採用担当者)

 2.人材紹介会社の特例子会社(採用担当者)

 3.金融機関(所属部署の上司)

F.企業側から見る障害者雇用の注意点と実際

 1.発達障害について障害受容できていない場合

 2.クローズでの就職を希望する場合

 3.実習先に採用される場合

 4.非正規雇用から正規雇用を目指す場合

 5.本人の現実検討力がなく,高い目標を設定し障害受容が難しい場合

 6.企業と就労支援事業所との連携の必要性


あとがき

索引

特記事項

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