運動失調のみかた、考えかた-小脳と脊髄小脳変性症-

宇川 義一 (編)

株式会社 中外医学社

358 頁  (2017年9月)

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リリース日: 2018年01月12日

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小脳についての最新情報から、明日の診療に役立つ実践的知識までを網羅。

小脳の解剖、生理、生理学的異常と検査から、近年大きく研究が発展した脊髄小脳変性症の発生機序・分子病態までを精緻に解説。小脳に関してを知りたい人にとって最適な本。

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小脳の解剖、生理、生理学的異常と検査から、近年研究が急速に進展した脊髄小脳変性症の発生機序、分子病態までを精緻に解説した。最新の知見から、臨床の現場で役立つ実践的な情報までを各領域の第一人者がまとめた決定版


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はじめに

2017年のお盆に,京都でのWCN2017までの完成を目指して,この本全体の校正を行っているが,今更ながら勉強をさせていただき,とても良い本が仕上がったと言う印象がある.そして,お盆の2日間かなりの時間校正を行っていたら,お尻に肉の少ない私にとって,椅子の重要さも実感する機会となった.そこで序文として,この本全体の私の印象を述べさせていただく.

小脳を中心として一つの単行本と言う事で,企画の話をいただいた.ただし,小脳全体というより,"小脳と脊髄小脳変性症"と副題にもあるように,自分の興味から,小脳の解剖・正常生理から生理学的異常・検査と,近年大きく発展した脊髄小脳変性症の発生機序・分子病態に重点を置いた単行本となっている.以下に,それぞれの章に対して私の持った実感を述べて,この単行本の特徴を浮き上がらせたい.それぞれの章を,その道の日本での第一人者に執筆いただいたのが,この本の質の高さを保証しているように思い,皆様に感謝したい.

小脳の解剖,正常生理,検査方法が詳しい

解剖については,細胞構築にいたるまで詳しく解説いただき,小脳を作ると言うイメージで発生に関しても記述いただいた.生理についても,小脳の誤差補正の本質を学習の生理から解説いただき,時間的調節と振幅の調節という二面から,クラシカルな事実から,最新の研究成果まで記載していただいた.この二面性は大脳基底核にも当てはまる事実である.

診察などの臨床的項目では,記述にとどまらず,その異常所見の病態生理にも言及していただいた.姿勢,筋トーヌスなどでも,生理学的基礎を解説いただき,小脳症状の本質の一つされる低トーヌスに関する説明もある.歩行については,ステップごとにモーメントにより前に転びながら立ち直っていると言う記載は興味深い.構音,嚥下についても一つの項目として取り上げ,嚥下障害は小脳障害だけではあまり生じないと言う事が解った.嚥下も構音も随意的な要素と反射的な要素があるが,構音の方が随意的な細かい調節の要素が多いので小脳障害で目立った異常を示しやすいのかと考えた.神経内科医になりたての頃に,呼吸運動と言う運動で小脳性の障害が出現しないのかと興味を持ったことを思い出した.眼球運動,眼振も項目を立てて解説いただいた.VGSが主に小脳の機能を見ていて,MGSが大脳基底核の機能を反映するという,眼球運動の記述は,paradoxical gait の時に,視覚情報というガイドを用いて小脳を主に使うので,歩行が可能となると考えている私にとって興味深い考察であった.これまで運動に注目されていた小脳であるが,パーキンソン病の非運動症状と同様に,近年運動以外の機能に対する小脳の制御も話題となっているので,解説いただいた.私がemotional dysmetria,mental dysmetria,cognitive dysmetriaとか,emotional akinesia,cognitive akinesiaなどとシャレで言っていたことが,本当にcognitive dysmetria, poor mental incoordinationとして,使用されていることをはじめて知り,驚いた.当然色々な小脳ループがあるので,運動以外の症状をだしてもおかしくない.検査では,プリズム順応,タッピング,トラッキングという新しい検査から,何か新しい小脳症状を解析しようという意欲がうかがえた.特に,フィードバックとフィードフォワードを分離しようとする試みは興味深い.画像検査では,新しい解析方法がいくつか開発され,従来の検者の主観的解析以外に,コンピュータを駆使したさまざまな解析法,ネットワークとして機能を分析する方法など,新しい方法が紹介されている.

遺伝子,分子遺伝学についてもかなり詳しく解析いただいた

遺伝子研究に素人の私でもその画期的発展が実感できる記述であった.遺伝子の解明は飛躍的に進歩している.そして,遺伝子異常の病態生理が判明しつつある.脊髄小脳変性症に関しては,他の神経変性疾患に比べて,その遺伝学的異常の発見がたくさん有り,多くの遺伝的な知識が蓄積されているが,他の変性疾患に比べ治療戦略にいたっていない印象が私にはある.この点は,薬物療法の章で,"豊富な基礎研究の成果にもかかわらず,人を対象とした治療介入試験で有効性を示すのが難しい"と述べられていて,その対処法も語られている.是非,読んでいただけると幸いである.一つの原因として,おそらく脊髄小脳変性症という概念でくくっている疾患が,他のくくりより多くの疾患を含んでいるからではないかと考えていた私の意見と同じことがすでに述べられていた.

はじめの3章で,遺伝子研究全体の総括を書いていただいた.この分野での日本の研究者の大きな貢献,今後の治療戦略を目指した日本全体の取り組みについても解説いただいた.それぞれの原因物質の詳細な記述の章ももうけた.ポリグルタミン,シヌクレイン,タウなどである.実に多くの遺伝子異常が判明してきていて,細胞死に至る機序もさまざまである.DNA修復機能不全,カルシウム濃度の恒常性の障害,核酸品質管理の障害,ミトコンドリアの機能障害などが述べられるとともに,DNA修復改善という夢のある治療法にも言及している.痙性対麻痺に関しても,飛躍的な遺伝子変異の解明が行われていることが述べられた.ここでも,他の変性疾患同様に,軸索輸送・細胞小胞機能・膜輸送・ミエリン維持など細胞が生きていく上で基本的で重要な機能の異常がさまざま発見されていることが報告された.近年注目を集めていて,系統変性疾患の基本となるかもしれないプリオン仮説も解説いただいた.細胞の基本機能を回復する治療や,プリオン仮説に基づく治療など,多くの変性疾患で同じ治療が効果を上げることを夢みたいと感じた.病理では,特殊染色により,変化の記述にとどまらず,病態生理にせまる議論がされている.

治療に関して

薬物治療に関しては,現状をわかりやすくまとめていただき,現在ある対症療法の概説と,新しい治療の試みも概説いただいた.さらに,MSAの新しい試みに関する章ももうけた.リハビリに関しても,現状に則した詳細な解説があり,現場で役立つ知識から今後の発展まで述べられている.さらに,日本で開発されて最新のHALを用いた小脳疾患のリハビリについても解説いただいた.

以上のように,日本の超一流の先生方に執筆いただき,最高レベルの単行本に仕上がっていると言う自負がある.小脳についての最新情報から,明日の診療に役立つ実践的知識まで網羅されている,小脳に関して知りたい人にとって,最適な本を提供できたと信じている.


2017年8月

宇川義一


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小脳の基礎 小脳は何をしているのか

I-1 小脳の解剖

I 小脳の位置と外形

II 小脳の区分

III 小脳皮質の組織構築

IV 小脳皮質の神経回路

V 小脳の入出力経路

I-2 小脳の発生と機能

I 小脳の内景と小脳皮質の細胞構築

II ヒトにおける小脳の発生

III 小脳神経細胞の発生

IV 発生過程における前駆細胞の移動

V 深部小脳核細胞の発生

VI 発生異常と小脳疾患

I-3 小脳の運動学習と運動記憶の特徴

I 小脳の神経回路

II 平行線維─プルキンエ細胞シナプスの長期抑圧(LTD)

III 眼球反射の適応とLTDの因果関係

IV 片葉仮説をめぐる論争

V 抑制性介在神経細胞のシナプス伝達可塑性と運動学習

VI ゲイン学習の記憶痕跡の移動と分散効果

VII 前庭核のゲイン学習の記憶痕跡の謎

VIII 瞬き反射の条件付けとLTD

IX タイミング学習の長期記憶痕跡

X プリズム適応からみた随意運動における小脳運動学習の役割

XI 小脳の運動記憶の特徴

I-4 歩行とは何か,小脳の役割

I 歩行の神経機構

II 歩行の誘発

III 歩行中枢とされるもの

IV 姿勢制御と脳幹網様体

V 姿勢制御と小脳

VI バランス維持と補足運動野

VII 筋緊張と歩行の制御

VIII フィードフォワード制御と運動学習

IX 歩行における小脳の役割

X 失調性歩行(ataxic gait)とは

XI 脊髄小脳変性症の歩行障害

XII 歩行解析

小脳症状の病態生理─診察,検査

II-1 小脳失調の診察,他の失調との鑑別

I 小脳症候診察時の注意点

II 小脳失調の評価スケール

III 小脳症候の分類

IV 小脳症候の診察

V 他の失調との鑑別

II-2 運動失調の本質,入力・出力・小脳自身

I 小脳への入力系と出力系の基本

II 前庭小脳(片葉・小節)への入力とその出力

III 脊髄小脳への入力とその出力

IV 大脳小脳への入力とその出力

V 運動失調の本質

II-3 姿勢・筋トーヌス(筋緊張)と小脳障害での低トーヌス

I 運動制御の基本的な枠組み

II 姿勢制御の必要条件

III 姿勢制御に関与する脳幹─脊髄の運動性下行路

IV 平衡・姿勢(身体のアラインメント)

V 姿勢筋緊張の調節

VI 小脳障害に伴う姿勢障害と低筋緊張の病態メカニズム

II-4 小脳と認知機能

I 解剖学的知見

II 臨床的知見

III Cerebellar Cognitive Affective Syndrome:CCAS

IV 脊髄小脳変性症における認知機能障害

V その他の疾患領域について

VI 健常者脳画像解析からの知見

VII 小脳損傷による認知機能障害のメカニズム

II-5 構音障害と小脳

I 発話を知る:構音と小脳

II 発話を診る:構音障害の診察・検査・評価

III 発話を診る:客観的検査

II-6 嚥下障害と小脳中村雄作

I 嚥下機能

II 嚥下運動にかかわる神経支配

III 嚥下機能と小脳の関連

IV 嚥下機能の評価法

V 脊髄小脳変性症の嚥下障害

II-7 小脳の非運動機能とその障害

はじめに−小脳は大脳の手綱を引いている

I 小脳の非運動機能について知るための解剖学と研究史

II 小脳の非運動機能の概説

III 精神疾患における小脳の役割

IV 脊髄小脳失調症(SCA)における非運動症状

V その他の小脳主体に侵される疾患における非運動症状

VI 3つの小脳性神経行動学的症候群

II-8 小脳と脊髄小脳変性症−眼球運動検査でわかること

I 衝動性眼球運動を調べるための眼球運動課題

II 小脳疾患でよくみられる眼球運動異常

III サッカードにおける衝動性眼球運動障害

IV 小脳出力核のアクセル・ブレーキ機能を評価する

V 小脳のperformance monitoringにおける役割

VI 小脳疾患における視線解析

VII 滑動性眼球運動における小脳の役割

II-9 眼振の発生機構

I 眼振

II 前庭器と前庭神経

III 前庭動眼反射と前庭性眼振

IV 前庭性眼振の緩徐相の神経機構

V 前庭性眼振の急速相の神経機構

VI 視運動性眼振,視運動性後眼振

VII 視運動性眼振の緩徐相の神経機構

VIII Gaze holding function

IX 注視眼振,反跳眼振,下眼瞼向き眼振

II-10 プリズム順応でわかること

I 小脳と知覚運動学習

II プリズム順応

III プリズム順応と小脳

IV プリズム順応を用いた小脳機能障害の評価

II-11 タッピング解析でできること

I タッピングとは

II タッピング検査の実際

III 小脳性運動失調とタッピング

IV 時間認知とタッピング

V 「時間的統合」と小脳疾患

II-12 文字のトラッキング

I 開発の背景

II 病的運動パターンの計測とそのデジタル化

III 「フィードフォワード制御」から「予測制御」へ

IV 予測制御器とフィードバック制御器の分離

V 小脳性運動障害における並列制御器の病態

VI Kinect v2を用いた,汎用性の高い運動機能評価システムの開発

II-13 小脳の構造画像

I Conventional MRIによる画像診断

II 萎縮の評価:volumetry

III 鉄沈着の評価:定量的磁化率画像(quantitative susceptibility mapping: QSM)

IV 微細構造の評価:拡散MRI

II-14 小脳変性疾患のMR:DTI,3DAC,MRSの原理と応用

I DWIの原理

II 拡散の異方性

III DTI

IV 3DAC

V 1H-MRS

VI 今後の方向性

II-15 神経機能画像でできること

I fMRIの原理

II fMRIの実験デザインと解析方法について

III 大脳−小脳間の解剖学的結合と機能的結合

IV 小脳の機能局在

V SCDのfMRI研究

VI 小脳を対象としたfMRIの問題点

小脳疾患の分子病態

III-1 遺伝子解析からわかってきたこと・わからないこと

I 脊髄小脳変性症の分子遺伝学

II 脊髄小脳変性症の遺伝子検査

III 遺伝子解析からわかってきたこと

IV 遺伝子解析で(現在のところ)わからないこと

V SCDの遺伝子検査における課題

VI J-CAT

III-2 遺伝性脊髄小脳変性症の分子病態

I ポリグルタミン鎖の異常伸長によるSCD

II RNA結合蛋白質の機能喪失もしくはRAN translationの関与するSCD

III 原因遺伝子のハプロ不全もしくは原因蛋白の機能喪失によるもの

III-3 孤発性SCDとはなにか

I はじめに ─孤発性とは?─

II 孤発性SCDの主要病型 ─CCAとOPCA─

III 孤発性SCDの診断

IV 孤発性SCDの予後

III-4 ポリグルタミン病

I ポリグルタミン病における核機能異常

II ポリグルタミン病共通病態としてのDNA損傷修復不全

III 遺伝子治療による脊髄小脳失調症モデルマウスの病態改善

III-5 シヌクレイン

I αシヌクレイン

II 多系統萎縮症とαシヌクレイン

III 多系統萎縮症の臨床病理像

IV 偶発的GCI

V MSAとパーキンソン病

VI 家族性MSA

VII PLA2G6のシヌクレイノパチー

III-6 タウ蛋白

I 進行性核上性麻痺

II 多系統萎縮症

III 脊髄小脳失調症

III-7 遺伝性痙性対麻痺

I 遺伝性痙性対麻痺とは

II 診断のポイントと鑑別疾患

III 遺伝性痙性対麻痺の原因遺伝子と各タイプの特徴

III-8 プリオン仮説

I プリオンの特徴,複製と伝播

II プリオン仮説の定義

III 多系統萎縮症におけるプリオン仮説

IV 脊髄小脳変性症におけるプリオン仮説

V 異常蛋白伝播を標的とした疾患修飾療法

VI 神経変性疾患における免疫療法の現状

VII プリオン仮説にもとづく免疫療法以外の疾患修飾療法の可能性

III-9 脊髄小脳変性症の神経病理

I ポリグルタミン病

II SCA31

小脳疾患の治療戦略

IV-1 薬物療法

I SCDの内科的治療の現状

II 治療介入試験による新規治療法の探索

III SCDの治療介入試験の課題

IV-2 リハビリテーション

I 小脳障害による運動症状

II 小脳障害と運動学習

III リハにおける障害のとらえ方

IV SCDの機能障害

V SCDの能力障害

VI SCDへリハ介入

VII SCDの短期集中リハ介入研究

VIII 継時的なリハ介入

IX SCDのリハの課題

IV-3 HALと小脳障害

I HALを使用した歩行運動療法

II 小脳障害とそのメカニズムの考え方の概要

III 小脳の構造と機能の概要

IV 小脳失調に対する機能回復プログラムの問題点とHAL

V SCDに対するHALの効果に関する探索的検討

IV-4 多系統萎縮症の治療戦略

I 多系統萎縮症の概略

II 全体的な治療方針と予後

III 自律神経障害の治療方針

IV 小脳性運動失調の治療方針

V パーキンソニズムの治療方針

VI 嚥下・呼吸・睡眠障害の治療方針

VII これまでに行われた無作為化プラセボ対照比較試験

VIII 病態機序の解明と新たな治療法開発


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