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誰にでもできる薬物依存症の診かた

成瀬 暢也 (著)

株式会社 中外医学社

125 頁  (2017年6月)

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リリース日: 2018年01月19日

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薬物依存症治療の最大の敵、それは治療者の陰性感情です。

終始、治療者は太陽であれ!20年以上にわたり薬物依存症の治療に取り組み、いまや「薬物依存症治療が楽しくてしょうがない」著者が、そのコツと考え方を伝授します。

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薬物依存症治療の最大の敵は治療者の陰性感情です.20年以上にわたり薬物依存症の治療に取り組み,いまや「薬物依存症治療が楽しくてしょうがない」著者が,そのコツを伝授します.薬物依存症の治療は決して特殊なものではありません.治療者が,薬物依存症は「病気」であると理解できれば,かならず良好な経過を辿ることができます.


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はじめに

わが国の依存症治療の現状をみると,アルコールに関しては標準化された治療システムが最低限普及していますが,薬物については「無医村」的状況が続いています.わが国では,歴史的に中毒性精神病の治療に終始し,薬物依存症の治療は行われてきませんでした.

精神医療において,薬物依存症ほど治療者が抵抗を感じる疾患はないかもしれません.何万人といる精神科医の中で,専門とする医師がごく少数であるとともに,一般精神科医療機関や精神科医に,診察自体を拒まれることが普通です.薬物依存症に関心をもつ医師は,「変わり者」であり「物好き」と言われても仕方がない状況が続いているのです.

私は,平成7年に現在も勤務する埼玉県立精神医療センターの依存症病棟の病棟医となり,薬物依存症患者と本格的に関わるようになりました.依存症病棟では,アルコール依存症患者と薬物依存症患者を同じ依存症患者として治療するということが申し合されていました.当時,私と共に依存症病棟担当の候補とされた医師は,「依存症病棟に配属されたら病院を辞める」と上司に答えたため,私が自動的に担当となった経緯があります.私も決して望んで引き受けたわけではありませんでした.当時は今とは比較にならないくらい粗暴で怖い患者が多く,病棟に入るにも緊張していた記憶があります.実際に,あちこちでトラブルが起こりスタッフは疲弊していました.強い使命感とスタッフの団結で患者集団に対応していました.スタッフの多くが強いストレスを感じていたことは否めません.

私が依存症病棟の担当となって間もなく,依存症に造詣の深いベテランのソーシャルワーカーから,米国の治療施設見学ツアーや,アルコール依存症の世界的な自助グループであるAA(Alcoholics Anonymous)のワールドコンベンションへの参加を強く勧められました.消極的ながら参加した私は,何より患者を尊重した治療者のスタンスと,治療の場の明るさや治療者の温かさに驚かされました.それまでみてきたわが国の依存症治療の雰囲気やあり方とは全く異なっていたのです.

そのような驚きをもちつつも,依存症病棟で勤務する私は,依存症患者に対して陰性感情・忌避感情を払拭できないでいました.そして,彼らが何を考えているのか,どうすれば回復に向かうのか,どのように対応することが望ましいのか,回復には何が大切であるのか,がさっぱりわかりませんでした.「自助グループへ行けばいい」と言われていましたが,半ば強制的な対応をしなければ誰も行きませんでしたし,行っても決して続きませんでした.どうしてよいかわからず,思うように動いてくれない患者に対して陰性感情をもち,不全感を強めていきました.次々とトラブルを起こす患者を前に,私自身病棟に行くことさえ苦痛になった時期もありました.問題を起こす患者は排除したい,という思いはスタッフに共通してみられ,増強されていったのです.

このような経験は,これまで依存症治療に携わった治療者であれば,かならずといってよいほど経験することでしょう.その際,薬物患者,特に違法薬物患者に対しての陰性感情・忌避感情が強くみられました.「犯罪者」「暴力的」「威嚇的」「怖い」という意識がありました.それでも当時のスタッフを責めることはできません.するべき仕事をこなし,むしろ強い使命感をもった勤勉なスタッフがほとんどでした.患者が再飲酒を繰り返したり,薬物を持ち込んだりするたびに,担当看護師は涙を流して傷ついていたことを記憶しています.治療者は,「患者を正しい方向に変えてやろう」と強要し,患者は「変えられまい」と抵抗・反発していました.当然,治療関係は対決的となりやすく,信頼関係を築くことは難しかったと思います.それでも,少数ながら,治療者に真剣に向き合ってもらえたと感じた患者は,自ら回復への道を歩み始めることもありました.そのような患者がいたので,私たちは何とか救われていました.しかし,多くの治療者は疲弊して病棟を去っていきました.

私は,その後も特別な考えもないまま依存症病棟の担当を続け,平成26年に後任に譲るまで病棟に留まりました.今は当時とは全く異なった心境で診療に当たっています.診療が楽しくて仕方がないのです.それは,ある時から依存症患者と依存症治療にとって大切なものが理解できるようになったからです.正直言って,それまで依存症患者,特に薬物依存症患者と「ひとりの尊厳ある患者」として関わることはできていませんでした.米国の治療施設で感激した対応を忘れてしまっていたのです.

自分が逃げずに患者の心の内を理解しようと思えるようになったのは,病棟を担当して10年ほどたってからのことでした.医療機関の中に「回復」はありません.「回復」は医療機関の外にあります.病院の中だけに留まっていた私は,本当の「回復」を知らなかったのです.「回復」の姿を知らずに治療をしていたのです.患者との心の壁をつくっていたのは私自身でした.それを気づかせてくれたのは,多くの回復者であり家族でした.

現在,私は依存症外来を「ようこそ外来」と名付けて,主に薬物依存症患者に対して診療を行っています.なぜ,私は薬物依存症の治療を,20年以上にわたって続けているのか.なぜ,毎日の薬物依存症患者の診療が楽しくてしょうがなくなったのか.この経験を基に,薬物依存症の治療に大切なこと,陰性感情や忌避感情から解放されるコツ,回復支援に大切なことについて述べたいと思います.

当時の私と同様に,薬物依存症患者の診療に抵抗がある多くの治療者が,少しでも苦手意識を軽減し,薬物依存症者に当たり前に治療を提供できるようになることを願っています.その時,治療者は私と同じように患者と関わる喜びを実感できると信じています.

2017年4月

成瀬暢也


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7つの法則 

I 薬物依存症をめぐる状況

1 わが国の薬物問題の現状はどうなっているのか?

2 主要な依存性薬物の種類と特徴

3 危険ドラッグ問題が示していること

4 ハームリダクションの根底にあるもの

5 薬物依存症患者はどうして嫌われるのだろうか?

6 薬物依存症患者は診やすくなっている!

7 薬物依存症はアルコール依存症より回復しやすいか

II 薬物依存症の治療

1 薬物依存症とは?

2 薬物依存症の診断とは?

3 薬物依存症の治療とは?

4 新たな薬物依存症治療の広がり

5 海外で実践されている心理社会的治療

III 埼玉県立精神医療センターでの薬物依存症治療の実際

1 「ようこそ外来」の徹底

2 LIFEプログラムの実践

3 補助介入ツールの積極的活用 ─LIFEシリーズ

4 「ごほうび療法」の積極的導入

5 薬物渇望期への適切な対応─渇望期自己チェックリストの活用

6 当センターの依存症治療の基本的な考え

IV 誰にでもできる薬物依存症の外来治療

1 薬物依存症の背景にあるもの

2 薬物依存症の回復支援

3 誰にでもできる薬物依存症の外来治療

4 誰にでもできる薬物依存症の治療・回復支援

5 依存症臨床現場からのメッセージ


おわりに


● 文献

● 索引

特記事項

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