introduction

今回，本特集のテーマとして「人工膝関節置換術のインプラントと術式の選択」を取り上げました。人工膝関節置換術は膝関節の変性や変形，破壊のために日常生活動作に障害のある患者さんに対して，痛みや変形がなく，よく動いてしっかりと荷重支持のできる関節を提供できる優れた治療法です。過去に策定された変形性関節症の治療ガイドラインでも，risk/benefit比を考慮して，最も優れた治療法の1つとして推奨されています。わが国における年間手術症例数も年間90,000件に迫っており，10年単位でその数は倍増し続けています。このように長い期間にわたる臨床経験から，その有効性が認められてきている一方で，インプラントデザイン（機種選択）や手術手技の最適化について，いろいろなコンセプトが提案・報告されるものの，いまだ意見の一致をみていない，という感があります。本特集では，現時点での到達点や課題を明らかにすることを目的として，人工膝関節置換術の分野においてわが国の第一線で活躍されている先生方にご執筆をお願いしました。

まずⅠ章で，インプラントデザインについての基本的な考え方や，各タイプの機種のデザインコンセプト，特徴，適応，そして手術手技の基本について述べていただいています。従来からの後十字靱帯温存，切除に基づくCR型，PS型に加え，切除した前・後十字靱帯の機能を代償するコンセプトでデザインされたCS型，bi-cruciate stabilized型，さらに前・後十字靱帯を温存するbi-cruciate retaining型，単顆型のUKAと，各インプラントタイプ各々の特徴について知っていただける内容になっています。Ⅱ章では手術手技について，いろいろな観点から述べられた項目が含まれており，術前計画から術中のアライメント決定，骨切り，軟部組織バランスの調節などをどう考えどう行うかという問題に対して，見識・経験の深い先生方に解説していただいています。

人工膝関節置換術におけるインプラントの選択や手術手技の最適化に関しては，さまざまな観点から新たな概念が提唱されるなかで，どのような基準の下に手術選択を行うか決めかねている読者も多いと思われます。そのような方々に，本特集の各項目は判断の拠りどころとなる最新の情報をお届けできる内容のものではないか，と思っています。

最後に，ご多忙のなか，ご執筆の労をおとりいただいた先生方に心より感謝の意を表する次第です。

兵庫医科大学整形外科
吉矢晋一