introduction

「人工股関節全置換術（THA）は誰がやってもそこそこの成績が出る」といわれるようになりました。それが反映しているかのように，矢野経済研究所からの報告でもTHAの年間件数は右肩上がりに急速に伸びており，2017年では6万件を上回るようになっています。最新の『変形性股関節症診療ガイドライン2016』からも，セメント固定，セメントレス固定ともに大まかには20 〜30年の耐用年数が妥当であろうと考えられるようになり，さらに長期成績の向上や，合併症発生率の低減のための工夫が報告されるようになってきました。

しかし，そのなかでもさらにこだわり，突き詰めていくことは関節外科医として大切な姿勢です。それによって，より質の高いTHAが提供できます。また逆に，効果的なインプラント固定法の選択肢を増やすことで，あらゆる患者に対して，より安全かつ確実にTHAを提供できる可能性が広がります。これらは，個々の患者へのテーラーメイドの治療へとつながります。それらが真の関節外科医でありましょう。当然ながら，それには最新の知識や技術を常にアップデートして，学び続けなければならない努力が必要になってきます。

また一方で，術前評価法，さまざまなアプローチ法，さらにナビゲーションをはじめとする手術支援技術などのTHA周辺技術の発展も目覚ましく，そろそろ古くて新しく，ここ最近ホットな話題になっているテーマの1つであるTHAのインプラント固定法にスポットを当ててもいいのではないか，むしろその時期にきているのではないかと考えました。特に，CHEFやHITなどの特化したセミナーや研究会も開催されるようになっています。そして，その場には多くの次世代の関節外科医が参加し，大いに盛り上がっているのも現状です。

今回，「THAにおけるセメント固定とセメントレス固定」の最新の考え方やコンセプトなどについて特集することを企画致しました。本特集で執筆を依頼させていただいた先生は，この領域に精通された第一人者の先生ばかりであり，貴重な機会になりました。ご多忙のなかで玉稿を賜りましたこと，この場をお借りして深謝を申し上げます。一方で，限りある枠のためにご指名が叶わなかった第一線の先生が当然いらっしゃることも事実であり，ご寛恕を願う次第であり，ここでそのお詫びを申し上げたく存じます。本特集が，次世代の関節外科医の知識や技術のアップデートになり，患者に還元される特集になればこのうえない幸せです。

北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科/北里大学大学院医療系研究科整形外科
高平尚伸